事の発端は2022年1月10日、俺は正月早々に親戚のガキンチョどもにお年玉という名目のお布施を盗られ、ただでさえギャンブルの負けでカツカツの状況にとどめを刺されていた。
そうだ、パチンコに行こう。
思い立ったが吉日、パチンコを打てば大吉日という創作の諺を口ずさみながらパチンコ屋に向かう。
もう夜の20時30分、時間がない。俺は急いで「P大工の源さん超韋駄天LIGHT」というパチンコ台に腰を掛ける。通常パチンコというものは大当たりするのにも時間がかかり、大当たりした後にも時間がもの凄くかかるのだが、この「源さん」は93パーセントで大当たりが継続していき、連荘すればとてつもないスピードで玉が出てくるのだ。さらに、「源さん」という名前のキャラは”大工さん”で、敵の大工達を倒していくという世界観のパチンコなのも俺的には気に入っている。
大連チャンに胸を弾ませながら俺が腕まくりをしていると、隣に20代前半であろうピアスを開けた男が座ってきた。そのさらに隣の奥の方には彼女と思わしき女が座る。パチンコ屋に一緒に来るような人間関係を、女性と構築していない自分にとっては多少心にダメージを負ったが、気にすることではないだろう。俺は構わず己の台に向かい続けた。リーチよ。早く来い。
来た。3図柄(RUSHに絶対入る図柄)だ。極源炎舞、仲間参戦、赤テロップ、文句のつけようがないほどのトリプル役満だ。パチンコやらない人に伝わるように言うと、サッカーの敵ゴール前で最高のパスが飛んできた感じだ。これは決まる。既に「ぜってえええあたるでい!!!」と俺の心の源さんが叫んでいる。
対するカップルのピアス男は9図柄(バトルリーチ後半発展で大当たり濃厚)、しかもリーチ発展の際に源さんというキャラの目が炎(バトルリーチ後半発展濃厚)だったため既に大当たり確定だ。それを知ってか知らずかカップルは大はしゃぎ。微笑ましいじゃないか。一緒に喜ぶ人がいる。なんてすばらしい人間関係なんだろう。
俺は心からしみじみとそう思い、自分のパチンコ台に目を戻しリーチの結果を見守る。俺の台の源さんが「うおおおおお!!」と雄叫びをあげる。源さんが敵を倒すリーチだ。無事源さんが敵を倒せれば大当たりとなる。
ドクン…ドクン…ドクン…
グワシャ!(源さんがぶっ〇される)
「嘘だろ…。」
俺は声にならない声でつぶやいた。
同時にカップルの女が俺の台に向かって指をさす仕草を見逃さなかった。焦りながらも耳を澄ます。
「待ってww向こう激熱外してるんだけどww」
「ずっとボタン押さえてるやんwww」
俺は衝撃を受けた。なぜこいつらは同じパチンコ屋に来てる、同じ穴の狢に対してこんな仕打ちができるのか。
こいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつらこいつら
ぜってーしばく(血涙)
俺がカップルへの復讐を決心した瞬間、俺のパチンコ台が叫ぶ
「こんなところで!!負けるわけにはいかねえええんだあああ!!!」キュイン!!!!!!!!
当たった。復活大当たりだ。しかも3図柄(RUSH確定)。急いで俺はカップルの台を見る。カップルたちもRUSHをゲットしていた。同時にRUSH突入だ。
このくそカップルども。お前たちよりRUSH継続させて、俺が万発行ってる中トボトボ虚しく帰ればかwwww。いくぜええええええええええええええ。こいつらぜってー後悔させる。大体カップルでパチ屋に来るなバカ。法律で決まってんだぞ。法学部が言ってるのだから間違いない。と手首がはちきれんばかりの手のひら返しを決め込み、いよいよ俺のプライドを賭けたどっちが長くRUSHが継続するかというバトルの火蓋が切って落とされた。
となればまずは先制攻撃だ。俺は余裕の表情でパチンコ台の音量をMAXにする。
チラッと横目で確認するとカップルは突如響く大爆音に驚いたように目をこちらに向けながらも順調に連チャンを重ねている。膠着状態の中、音量MAXの俺の台の音が周囲に響き渡る。
「さん!!!にい!!!!いち!!!!ファイナルジャアーーージッ!wwww」
ぶち〇すぞクソ大工
うっそだろ。完全に音量マックスが裏目に出やがった。爆音で響き渡った””こいつもうRUSH終わりそうですよサイレン””はカップルが気付くのにはそう難しくなかった。カップルは大当たりを消化しながら俺の台を見つめている。やだやだやだyだやだyだあd!!!なんで!!!ここで終わりたくない!!!!ママ!!!😢
抵抗も虚しく、最後のジャッジの瞬間は訪れる。
「最後の一撃いいいいいいい!!!!」
俺は静かにボタンを押す。
「ズドドドドドドドドドド!!!!Vを狙え!!!!」
俺はまるでオナニーを終えた後のような顔をした。継続だ。首の皮一枚つながった。ありがとうママ。バブみの勝利だな。
そんなこんなで、カップルと俺は10連チャン20連チャンを達成。そしてついにその時は来る。カップルがファイナルジャッジに行った。俺はここでおもいっきし露骨に右腕でガッツポーズをする。さっきバカにされた仕返しだ。カップルの男がその一連の仕草を横目で見て舌打ちをする。ざまああああああああああああああwwうんちっち~~~!!ぶりぶりぶりぶり~~~wwwwwと胸の中で踊る。
ん?俺の台が何か言いたそうにしてる。
「ファイナルジャーーーーーーーーーっジっwwww!!!!」
ブ チ コ 〇 ス ゾ オ メ エ ヨ オ
だが、俺はまだ諦めない。俺の中のプリキュアちゃんも諦めないで!!!と叫んでいる。これはもらった。カップルとほぼ同時だつまりこれは事実上の最終決戦。
W源さん「最後のいちげきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
男と俺は同時に全ての力を振り絞りボタンを押す。
パリンッ!! パリンッ!!
二つのガラスが割れる音が響く。両者共に最後のチャンスをハズして、RUSHが終了したのだ。しばしの沈黙が空間を支配するが、突如カップルの男は思いっきしボタン強打をカマして、彼女と一緒に立ち上がり俺を睨みながら立ち去る。
””勝った、、、のか、、、?””
連チャン数では2つ多く俺が勝っていた。だが、勝負は引き分けだったと俺は帰り支度をしながら感じていた。寧ろ、俺とカップル双方とも””負け””なのではないか。このパチンコというシステム、パチンコ屋の店長、はたまた日本という様々な利害関係者によって、手のひらで踊らされていた被害者だったのかもしれない。
「ふっ。まるで将棋だな。」
俺はため息交じりにそう呟き、店を出る。
パチンコ店を出るとすっかり駐輪場の自転車は減り、まるで世間のパチンカスを見る目のように冷たい空気が俺をコーティングする。閉店準備をしているパチ屋から見えるのは、パチンカーであるが故の辛く悲しい背中と剝き出しになったアスファルトだけだった。